やけつくみぞおち

あの時 あの場所 遠いところ

わたしは そこにはもういないのだけれど

まだ見える 走り去らざるを得なかった人

まだ感じる たったひとつの安全な世界から引き剥がされる痛み

 

皮膚がはがされ 肉がそがれ 血がだらだらと流れ

今思えば あれで今すぐ立ち上がれと言われる方が無理だよなあと

明らかに 合点がいくものだけど

あの頃のわたしには わかるはずもなく

結局 人からもらった傷も なにもかも

自分に起きることは 自己責任なんだと思ってた

わたしが悪いものだから きたないものだから

どうせなにもうまくいくはずはないと 思っていた

 

傷はそのままその後も なんども踏みつけられて

こすられて さらされて 塩も泥もぬられ

でもそれが普通だったので よほど後まで こりゃおかしいとは理解しなかった

それが 生きにくさや 心の暗闇や 不眠や 体調不良につながっているとは

わかっているようで わかっていなくて

わかっていてもだからどうすればいいのかなんて さっぱりわかるはずもなく

だってほんの6さいだったんだもの

 

今 遠くの国で 起きている 見えること

すぐ近所でも 起きている 見えないこと

子どもも 大人も 安全な場所から 引き剥がされて

皮膚がはがされ 肉がそがれ 血がだらだらと流れ

あの痛みは あちこちで絶え間なく 繰り返される

 

何度も膿を洗い流したはずの わたしの傷あとも 疼く

痛みへの共鳴とともに 引き剥がす者たちへの怒りが 腹からのぼってくる

その昔 自分を安全な場所から引き剥がした者たちに

その傷を利用した者たちに

無言の傍観者たちに

興味本位で消費する野次馬たちに

やっと自由に覚えることのできるようになった怒り

引き剥がす者たちへの怒り

わたしは今夜も歯ぎしりし やけつくみぞおちを抱えて横たわる